Ragnarok Online Short Story  『ほさち編』




「あーの、ジジィどもが」
プロンテラ大聖堂の執務室に続く廊下を歩きながら、ラピスはそう毒づいた。
幹部会でねちねちと、お小言を言われたので、ご機嫌斜めなのだ。
「ゆっきをこき使って憂さ晴らししてくれる」
不穏な呟きを漏らして、執務室のドアノブに手をかけて…そこで動きが止まった。

『ほさち、おいで』
『でも…』

中から男女の───部下である雪乃とほさちのいかにもって感じの声が聞こえてきた。
(おぉ〜!?)
ラピスは目を輝かせてドアに張り付いた。



ドアに張り付いて聞き耳をたてているラピスを不審に思った雪流と雪奈が声をかけてきた。
「らぴぃ、何してるの?」
「ラピスさん、何してるんですか?」
ラピスはその問いに答えずに、無言で手招きをしてふたりを呼び寄せた。
ラピスは首を傾げながらやって来たふたりに
(ちょっと聞いてみろ)
と、小声で囁いて場所を空ける。
雪流と雪奈は首を傾げてお互いの顔を見合わせたが、ラピスが真剣な表情にただならぬ気配を感じ
ドアに耳を寄せた。
すると中から―――

『ほさち、大丈夫だから』
『はい…』

という雪乃とほさちの声が聞こえてきた。
「そんな…」
と、雪奈は崩れ落ちた。
ひそかに恋心を抱く相手…兄、雪乃がほさちと男女の営みをしている、という事実に打ちのめされてしまった。
「ゆきなちゃん…」
雪流は雪奈を抱きしめて頭を撫でてあげた。
雪流も雪乃に恋してる。
だから雪奈同様にショックだったが、姉らしく気丈に妹を慰めている。
(刺激が強すぎたか)
ふたりの心情を知らないラピスはそう思い、再び聞き耳をたてることにした。



それから数分後…。

くいくい…
「ん…?」
ラピスは法衣の裾を引っ張られたので、後ろを振り向くと、そこにはしゃがみこんで裾を掴んでいるフレークがいた。
(なんだ、フレークか)
(何してるの…?)
ラピスが小声なので、フレークも合わせて小声で問い掛けた。
(ゆっきが、ほさちと…してるみたいでな)
聞いてみ、と体をずらしてフレークの入る隙間を作るラピス。
「ゆっきが…」
フレークは信じられない、という表情を浮かべてドアに耳を寄せると―――

『ゆきさん、見ないでください…!』
『見るな、と言われても…』

(あぅー…)
聞こえてきた声に愕然として、肩を落としてしまった。
(みんなウブだなぁ)
などとラピスは思い、ドアに耳を押し付けて中の様子を窺うことにした。


それから更に数分後…。

「ハァハァ…」
「いいねぇ…」
「やっべ萌える…」
と、ヒロにぺいにくっつー等々。
いつのまにか、盗み聞きをしている人数が増えていた。
(ぐぁー、暑苦しい…)
かなりの人数がドアの前に集まってきたため、最初から居たラピスはぎゅうぎゅう、と後ろから押されて
苦しい思いをしていた。
(だが、絶対最後まで最前席は譲らんぞぉ…)
最初から盗み聞きしている者の意地として、そんなこと思っていると―――

『ゆきさん、ゆっくり動いてください…』
『あ、うん…』


いよいよかと思わせる会話の内容に、おぉ〜〜〜!?というどよめきが走る。
(おぁ…!?)
みんなが良く聞こえるようにと、今まで以上の力で寄りかかってきたため、ラピスはバランスを崩し

ガチャ…

思わずドアノブを握ってしまっていた。
そしてそのまま、後ろから押される力に逆らえるわけも無くドアを押し開いてしまい…

バターン!

盗み聞きをしていた全員が執務室の中になだれ込んでしまった。
「え、なんですか…みなさん!?」
と、雪乃の肩に乗ったほさちが勢い良く振り向いて驚きの声をあげる。
そこには肩車をしている雪乃とほさちがいた。
「…」
ラピスは期待を裏切られたような、呆れたような顔でふたりを眺めてから、何かを言おうと口を開きかけたとき―――
「こら、ほさち!急に動かないでよ…!」
ほさちが振り向いたときにバランスを崩したのか、雪乃の体がグラっと揺れて―――
「ごめんなさ…きゃぁ!」
「うぁぁ…!?」
ドシーン、と大きな音を立てて、そのまま倒れこんだ。
「いてて…」
「いたい…」
苦悶の表情でうめく雪乃とほさち。
「で、おまえら…何してたんだ?」
ラピスは、みんなに押しつぶされたまま問い掛けた。
「本棚の整理をしようと思ったんですけど、梯子がなかったので…」
「だから…じゃあ、肩車でー、と」
事の真相にラピスを含めた野次馬一同が「はぁ〜…」と落胆の息をついたとき
「ゆきにぃのえっちー!」
「兄様…」
「ゆっき、不潔…」
と、三者三様、雪乃を非難する雪流、雪奈、フレーク。
雪乃は一瞬なんのことかと思ったが、自分の様子をみて理解した。
倒れこんだ自分の上にほさちが覆い被さっていて、自分とほさちの体の向きがそれぞれ上下逆に…
つまり、そういう体勢になっているのだ。
「ふ、不可抗力だろっ!これはーーーーー!?」
雪乃の絶叫が午後の執務室に響き渡った。