「ん…はぁはぁ…」
雪乃の指が雪奈の中に入ってきた―――そこで、雪奈は目を覚ました。
「わたしったら…なんていう夢を」
と、息を切らしながら呟きを漏らす。
「それに…」
雪奈は自分の股間のあたりに視線を移す。
毛布に隠れて見えないが、雪奈の手は自分の秘所に触れていた。
(わたし、あんな夢を見ながら…自分で)
雪奈は股間から手を抜いて、眼前にかざすと…指先は濡れていた。
無意識のうちに自ら慰めていたようだ。
「…」
兄と淫らな行為をする夢を見てしまったうえに、姉のベッドで自らを慰めていたことに雪奈は
罪悪感を感じていた。
(とりあえず…手を洗わないと、いけませんよね)
と、自分の愛液で濡れた手を見てそう思ったが、自慰の熱で体が未だに火照っていたので
熱が冷めてから起き上がることに―――
「んぅ…ゆきなちゃん?」
しようと思っていると、真下…二段ベッドの下の段から雪流の声が聞こえた。
(ね、姉様…!?)
「ゆきなちゃん、どうしたの…?」
なんでもないです―――雪奈はそう答えようとしたが、焦りのために声が出なかった。
(ど、どうしましょう…)
下で何やら、ごそごそという音がする…おそらく、雪流が起き出して来たのだろう。
(はわわ…)
雪奈が混乱の境地に達していると―――
「雪奈ちゃん?」
ベッドのはしごに登った雪流が雪奈の顔を覗きこんでいた。
「ね、姉様…」
しばらくの間、雪奈は硬直したまま訝しげな姉の瞳を見つめていたが、慌てて手を下ろして毛布の中に隠そうとすると
「あ…」
ぱしっと雪流に手首を掴まれていた。
「……」
「姉様…これは」
雪流はじっと雪奈の手を見つめてから、ふっと柔らかく微笑むと雪奈の手を離してベッドの上に登り
「あの…姉様?」
雪奈の体の上に覆い被さった。
雪流の意図がわからずに雪奈はおどおどした瞳を向ける。
「雪奈ちゃん、ゆきにぃのこと考えて…してたんだね」
「―――!」
静かに紡がれた雪流の言葉に、雪奈は顔を赤くして背ける。
「正解だぁ」
笑って雪流。
「どうして…」
わかったんですか―――後半を飲み込んだ呟きを漏らす雪奈。
「だって、わかるよ。ボクは雪奈ちゃんのお姉ちゃんだもん」
雪奈は視線を雪流に戻すと、雪流は優しく微笑んでいた。
「辛いよね…好きな人がお兄ちゃんだもん」
そう呟いて、雪流は雪奈の手を取ると、自分の口に妹の指を含む。
「え…姉様!?」
「ちゅぷ…んちゅ…ぺちゃ」
雪流は雪奈の指についた愛液を舐め取っていく。
「くちゅ、んちゅ…」
雪奈の指を綺麗にすると、雪流は手を離して
「それに、ボクもゆきにぃのことが好きだから…全部、わかるよ」
と、寂しげに呟く。
「姉様…」
妹が兄を想う恋慕は決してカタチにしてはいけない、ということを。
自分よりも大切だと言える人なのに、この想いを伝えてしまえば…想いは価値を失い
大切ではなくなってしまう関係であることを。
「だから…」
雪流は雪奈の体から降りると、雪奈の腕を引いて半身を起こさせると
「今だけ辛くないようにしてあげるね」
頭を自分の胸に抱き寄せて、軽く抱きしめる。
「姉様…」
雪奈は、姉の突然の行為に軽く驚いたが、抱きしめられた姉の温かさに安らぎを感じそっと目を伏せた。
「ボクがいるから大丈夫だからね」
雪流は幼子をあやすように雪奈の頭を撫でる。


(ゆきなちゃん、なかないで…)


(ゆきなちゃん、ボクがいるからだいじょぶだよ)


(だから、ゆきなちゃんわらってよ)


「はい…」
幼いころに戻ったような気がして、雪奈は笑みを浮かべた。

 

 

翌朝。
「ゆきなちゃーん、はやくー」
雪流が雪乃の腕に抱きついて、ぶんぶんと手を振りながら雪奈に呼びかける。
「はい。今いきますー」
雪奈は玄関のドアに鍵を掛けると、ふたりのもとへ小走りで駆け寄った。
「それじゃあ、崑崙にしゅっぱーつ!」
と、雪流は高々と天に向かって拳を突き上げる。
雪乃が久しぶりに帰ってきたのだから、ということで今日は兄妹3人で出かけることにしたのだ。
「ほさちに借りを作ってしまった…」
どう埋め合わせをするか…と意気揚々な雪流の横で思案する雪乃。
実は、有給の申請と今日の仕事をほさちに押し付けてしまったのだ。
「さ、いきましょう」
と、雪乃の隣―――左隣には雪流がいるので右隣―――にたどり着いた雪奈は歩を促す。
「あぁ、そうだね」
雪乃は軽く頭を振って、ほさちのことを思考から追いやっていると
雪流にはやくーはやくーと絡ませた腕をぐいぐい引っ張られて「そんなに急がなくても」、と苦笑しながら歩き出す。
その様子を見ていた雪奈は、ひとつ頷くと―――
「ゆ、雪奈…?」
雪乃の右腕に抱きついた。
(これくらいなら、兄妹でも許されますよね)
現に雪流もそうしていることだし。
雪乃はいつもと違う雪奈の行動に少し戸惑っていたが、たまにはこういうことをあるか…と思い、普段通りに歩いていく。
雪奈も倣って普段通りに歩き出すと、やがて首都プロンテラの最大の出入り口である南門が見えてくる。
(自分から想いを伝えることはなくても、いつか振り向かせてみせます)
そんな想いを秘めて、彼女たちは城門をくぐり抜けた。